甘い愛で縛りつけて


「心配しながら薬をくれる朝宮くんを、穏やかで優しくて、いい青年だと感じた。
教養もあって話すのが楽しくてね、いつの間にか暇があると保健室に足を運ぶようになっていた。
それだけ魅力のある男なんだ。私は彼の親じゃないから、親ばかとは言わないで欲しいが」

ふって笑った事務長に、私も合わせて微笑む。
最初は何かと思ってびっくりしたけど、事務長の話の続きが気になっていた。
恭ちゃんの話だったから。

「保健室に足を運び始めて少しした頃かな。彼の傷みたいなものに気づいたのは」
「傷……?」
「いつだったか、話しているうちに大事なモノの話になったんだ。
無人島に何か3つ持っていくとしたら何かって話に」

いい大人が随分可愛い話をしているから、思わず笑みをこぼすと、事務長が「河合さんだったら何を持っていく?」なんて聞く。

「えっと、携帯……は、電波が入らないか。
でも、無人島から出る手段を持ちたいので……運転手つきのヘリとかダメですか?
あとは、やっぱりできる限り多い食料と、ライターとか……。
あ、人でもいいなら、ものすごく頭のキレる逆境に強い人とか一緒にいてくれたら心強いです」

私が真剣に答えたからか、事務長が笑う。
それから、その笑顔を少し陰らせた。

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