甘い愛で縛りつけて


ドアを開けたまま突っ立っていた私もハっとして、道を譲る。
部屋を出ていく時、桜田先生に少しだけ睨まれた気がしたけど……気のせいではないと思う。

親戚だって言ってるのに完全に敵視されてる。

カツカツとヒールを鳴らす桜田先生と、ペタペタとかかとをつぶして履いている上履きを鳴らす有坂さん。
廊下を歩きながらも何やら言い合ってるふたりを眺めていると、部屋の中から「実紅」って呼ばれた。

相変わらず名前で呼ぶ恭ちゃんは、どうやら親戚だって嘘を学校中に広めたいらしいけど、勘弁して欲しい。

そんな噂が広まっちゃったら、一緒にいるカモフラージュにはなるかもしれないけど、色々変な事頼まれる機会が出てきたりしちゃうかもしれないのに。
恭ちゃんの子どもの頃の話を教えてだとか聞かれても、教えてあげたくない気持ちの私にどう答えろっていうの。

勝手な八つ当たりだけど、もう少し考えて欲しい。

「あ、ごめん。出直す」
「は? 用があったんだろ?」
「だって、体調悪い子が寝てるんでしょ? 全然急用じゃないし、後で大丈夫だから」
「ああ、問題ねーよ。誰もいないから」
「えっ」
「うるさかったし、追い返したかっただけ。どうせ仮病だろうし。
誰か寝てたらこんな口調で話さねーだろ。いいからドア閉めて入ってこい」
「あ、うん」


< 115 / 336 >

この作品をシェア

pagetop