甘い愛で縛りつけて
◇「今日の放課後、保健室来い」



「あ、おかえり。あれ、実紅、膝どうしたの? 顔も」
「え……あー、球技大会で転んだの」
「球技大会? 今の球技大会は教員も参加するの? あ、少子化の関係で?」
「まぁ、そんな感じ」
「もーいい加減な返事ね。丁度お風呂入れたところだから入っちゃいなさい。
出たらちゃんと絆創膏貼りかえんのよ?」
「うん……」

どうやって家に着いたのか、覚えていなかった。
電車に乗って、降りて、歩いて……気付いたら家で。

その間、意識していた事なんて何もない。
降りる駅のアナウンスさえも聞こえていなかった。

それでも家に辿り着くんだから習慣ってすごいなと、どうでもいい事を考えてから部屋のドアを開けた。

結局、小川さんと有坂さんのクラスは見事総合優勝を勝ち取った。
ふたりが常に意識していた桜田先生のクラスは、8クラス中7位。

だけど、わざとらしく悲しい表情を浮かべる桜田先生を励ます男子生徒がやけに目立っていた気がしたし、案外、桜田先生的には負けた方がおいしい立場だとか思ってたのかも。

そう考えると、私を転ばせたのはやっぱり保健室に行かせるためだったのかもしれない。


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