甘い愛で縛りつけて


「恭ちゃん、何……? 離して」

抱き締め返したい気持ちを必死に抑えながら言うのに、恭ちゃんはきつく抱き締めたまま動こうとしなくて。
私もそれ以上は何も言えなくなってしまった。

恭ちゃんに抱き締められたまま、トクトクと心地よく響く自分の鼓動を聞く。

もう膨らまないくらいまで大きくなって暴れていた恭ちゃんへの気持ち。
だけど、そんな想いも恭ちゃんの腕の中でなら大人しくしてくれていて、ずっと荒れっぱなしだった心が久しぶりに落ち着いていた。

泣きたいくらいに苦しくて切ない想いも、触れ合っていれば温かい感情に変わる。

桜田先生との事があってからずっと力んでいた身体から緊張が抜けていくのを感じながら、恭ちゃんの背中に手を回そうとした時。
恭ちゃんがやっと口を開いた。

「実紅、さっきのもう一回言って」
「さっきの……?」
「俺が好きだから、他の女に触らせたくないとか」
「言ってない……っ」

触らせたくないなんて言ってない!
そう否定すると、恭ちゃんは、でも思ってるだろ?と抱き締めたまま言う。

そんな誘導尋問されたって、いつもだったら言わないかもしれない。
だけど、触れ合っていると気持ちが素直に言葉になるから不思議だった。


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