空のこぼれた先に

……だけど、気付いてしまったから。

逃げている間、どうしてあの女の名前に引っ掛かりを覚えたのかを必死に考えていたら、思い出してしまったから。

知ってしまったら、他人事には思えなかった。

たとえ、頼りなげに見えるこの令嬢がとんでもない悪人なのだとしても、あの女の頼みを断ることなんて、俺にはできない。

あの女が自分の命を賭けてでも守ろうとした令嬢を、俺には見捨てることなんてできないんだ。


────この国では珍しい、茶系の髪と瞳。

俺の名前を当たり前に呼んだ。

そしてなにより、令嬢が呼んだ、フレイ、という名前。


どうしてあのとき、思い出せなかったのだろう。

きっと相手は……フレイは、一目で俺が誰なのか、気付いていたのに。

名前を呼ばれたときは、どうして俺のことを知っているのかと訝しんだけれど、知っているのは当たり前だ。

フレイは、──俺の実の姉なのだから。

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