赤ずきんは狼と恋に落ちる
「今日、は、友達と、飲みに、行くので、帰りが、遅く、なります、っと」
ボソボソと言いながら、ボタンをカチカチと押す。
「電話、で、連絡、出来なく、て、ごめん、なさい」
廊下の隅っこで、声に出しながらメールを打つ私は、傍から見れば可笑しなものだ。
早く送信しなくちゃ。
「あれ?佐々木さん、こんなとこで何してんのー?」
「う、っわ!!」
カチッ。
親指にボタンを押す感触が伝わる。
画面を見ると、「送信しました」の文字が浮かんでは消え、浮かんでは消え。
理由の分からない虚しさが生まれる中、何も気にしていないような顔をする、彼。
「ごめんごめん、電話中だった?」
「いえ……」
パタン、と携帯を閉じると、彼はじっと携帯を見つめる。
「佐々木さん、彼氏もう出来たの?」
「出来てないですよ。で、島上さんは?」
会えば話す程度の間柄である彼、島上さん。
今夜、慰め会を開かれてしまった、私と同じ身の人だ。
「いや、佐々木さん見かけたから挨拶しただけ。そうだ、今夜のこと、聞いた?」
「はい。慰め会のことですよね?」
「慰め会……。ねぇ……」
島上さんは、“慰め会”と口にした途端、眉をひそめた。
「俺、振られたんじゃなくて、振った方なんだけど」
「は?」