赤ずきんは狼と恋に落ちる
コトリと置かれた苺ジュース。
店内の光がグラスに当たり、鮮やかな赤がゆらりと映える。
「ありがとうございます……」
それだけ言って、一口飲む。
あ、美味しい。
「美味しいですか?」
「はい」
甘すぎなくて、サラリと飲める。
子どもっぽいなんて、そんな単純な理由で、ここではコーヒーや紅茶しか頼まなかった自分が損をしていた。
そう思うくらい、この苺ジュースは美味しい。
「良かった。それ、俺も好きなんです」
ゆるりと目を細めながら笑う彼を見て、その表情にドキッとする。
「お客様……、って言うのは何だか他人行儀ですね」
私を見て、彼はクスリと笑った。
「俺、宇佐城千景って言います」
そう言って、ぺこりと小さく会釈する宇佐城さん。
これは私も名乗らないと。
「佐々木りこ、です」
宇佐城さんに向かって小さく小さく会釈。
「りこさん、ですね」
口角を上げて名前を言ってくれる宇佐城さんに、失恋して泣いていたばかりにも関わらず、ドキッとしてしまう。
その声と、笑顔。
私なんかが聴いたり、見たりしてもいいのかな。
そういえば、何だかさっきから引っかかることがある。
宇佐城さんのイントネーションが、私と妙に違う気がするのだ。
私と少ししか違わないけれど。
「宇佐城さんって、関西の方ですか?」
そう何気なく訊いた瞬間。
切れ長の目を、パチリとさせて私を見る。
「分かるんですか?!」
さっきの落ち着いた雰囲気から一転、本当にびっくりしたのか。さっきよりも少し高めのトーン。
「え…、いや……。ちょっとそんな風に聴こえたからですけど……」
まさかそこまで驚かれるとは思ってなかったから、「訊いちゃいけなかったかな」と焦る。
そんな私を他所に、宇佐城さんは手の甲を口元に当てながら、何やら考えている。
「りこさん」
さっきよりも低い声で、そう呼ぶ。
「俺の話、聞いてもらってもいいですか?」
宇佐城さんの目が、あまりにも真剣で。
私は黙って頷くことしか出来なかった。