赤ずきんは狼と恋に落ちる
「俺、この前家を失くしたんです」
「え?」
あまりにも唐突な言葉に、私は間の抜けた声を出す。
そんな私を見てクスッと笑うと、また話へと戻る。
「俺のマンション、火事に遭っちゃって。今は勝手にここに住んでるんですけど、やっぱり色々と不便で」
ここに住んでる?
「あ、じゃあ、宇佐城さんって……」
「一応、この店の店長です」
恥ずかしそうに眉を下げながら笑う宇佐城さん。
火事で大変なのに、よくこんな風に落ち着いて笑っていられるものだ。
「何でそんなに落ち着いていられるんですか……。大変なのに……」
「そうですね」
私がしたってどうしようもないとは思いつつも、彼に余計な心配をしてしまう。
当の本人は、特に問題はなさそうな様子なので、何だか拍子抜けする。
「すみません……。余計なこと言っちゃって」
「いえいえ。そう言うのが普通だと思いますよ?」
そう、なのかな……?
自分がどんなにおかしな顔をしているのか見られたくなくて、もう一口苺ジュースを飲む。
他人に余計なお世話をかけて失敗するのは、私の得意なことだ。
彼には悪いけれど、ここは何もしないで相槌だけ打っておこう。
――でも。
何でそんな大変なことを、私に言ったんだろう?
宇佐城さんとは、今日出逢ったばかりで、特に親しい訳でもなく、ただの店長さんと客という間柄だ。
「じゃあ、今から本題です」
宇佐城さんは、人差し指をピンと上に立て、私に近づける。
「りこさん」
宇佐城さんの深い、深い黒。
ぼんやりしていたら、吸い込まれそうだった。
じっと目を合わせ、口をつぐむ。
「だから、俺を飼ってくれませんか?」
「はい……?!」
今、彼は何て言った?
飼う?
宇佐城さんを?
目を白黒させて混乱している私を前に、彼は悪戯っぽく笑う。
「今の『はい』は、イエスの意味?」
「いいえ!その、違います!ただちょっとびっくりしちゃっただけで……!」
必死で横に首を振る私に、フッと小さく息を吐く宇佐城さん。
「もう1回、言いますね?」
そう言って、宇佐城さんは私と向かい合わせになるように座った。