=黒蝶=

――ジカルッタ・レオナルンド


また首席だってよ

はあ?これで3年連続だろ?おかしくね?

ここまで来るとぜってーヤラセだろ

ははは、だよな~

ほんと、羨ましいぜ、俺らの努力も知らねーで





――お前らこそ、俺の努力も知らないで何を言う




ああ、お前か。最近きた新人ってやつは

なんだ、自分が優秀だからって見下しやがって

あいつ生意気だよなー




――誰も認めてくれない






お前は、旧市街へいけ。

そして、二度と―――




――どうしてですか!どうして俺が...






「どうして俺だけが!!」

がばあ!!


「うわあ、びっくりしたー」

少しだけ開いてる扉の隙間からこちらを、全く驚いていない様子でクロテが見ていた。
エプロンを外しながらこっちに近づいてくる。

俺は急いで俺は蹴り上げてしまった布団を拾い上げて、汗を拭く。

びっしょりと肌を濡らしてて気持ちが悪かった。



「あの、すいません」

「ん、シャワーの位置はもう知ってるね?」
「すみません...」
「全然いいけど、あ、そうだった。僕今日仕事で出かけるからオトハとお留守番よろしく、誰が来ても扉は開けちゃダメだから、いいね?」
「...はい」
「?」


突然額にひやっとしたものが触れた。

――クロテさんの右手か。


ひんやりとした手だな。もっと暖かいイメージだったけど。
俺は目を閉じてされるがままにしていると、手が離れていった。


「熱はないみたいだけど、体調悪い?」
「あ、いえ、平気です。悪い夢、見ただけで」
「そう。じゃあ、オトハと仲良くね」


笑顔を向けられ、俺も連れられ笑顔になった。
それを見たクロテさんはそのまま扉の奥に消えていった。その後すぐ玄関のほうで扉の開閉音が聞こえてくる、もう出て行ったらしい。急ぎの依頼なのかな。



「...」



クロテさんは、安心する。

俺の事情を深く探ってこないし、一人の人間として信用してくれてる。
一日しか一緒にいないけどなんだかそんな気がするんだ。



「奴らとは全然違うな...」


ため息をつき、近くのタンスからタオルを取り出す。
寝室としてあてがわれたこの部屋はどうやら男性が使っていたらしい。タンスの中は大きめの男服が入っていた。しかも結構新しいし。

クロテさんには気にしないでいいと言われたけど、やっぱ気になるよな。

誰かの部屋を勝手に借りてるってのは...ま、だからて文句を言えるわけでもないしありがたく借りさせてもらうとしよう。





ザーーーーーー


キュキュっ



昨日来ていた服が乾いていたので、それを着てシャワー室をでる。
するとオトハちゃんが廊下から出てきた。


「あ、おはよう、オトハちゃ」


スタスタスタ・・・


無視である。これ以上にない無視である。
クロテさんがいないと、完全に俺はいないものと扱うようだ。



「ま、いいか。」


元気そうでなにより。

しかし、あれだ。
銀の髪に青い瞳の少女なんて物語でしか見たことがないけど、こんなに可愛いものなんだなー

変なところで感心しつつ俺はキッチンに向かった。


今日はエプロンをしていたからクロテさんが料理担当のはず。少し楽しみなような怖いような感じ。



「おお、これは...!!」



パンとジャムと...サカナの丸焼き――が置いてあった。



「なぜ魚の丸焼きですかクロテさん...」


不思議な組み合わせすぎて、感想に困ったがいざ食べてみると美味しかった。なんというか、見た目によらず男の料理をする人だと思った。









ぴんぽーん



「っむ?」


事務所のデスク部屋から借りてきた雑誌から目を離し、玄関のある方を見る。
あのチャイム音、聞いたことないけど多分あれだよな来訪者を伝える玄関チャイム。

俺は雑誌を戻し、玄関に向かい歩いてく。


「あっ」


でも待てよ。

絶対開けちゃダメだって言われてたっけ。


途端、足を止め俺は立ち止まったまま玄関の扉を見守った。



「おーい、俺様のお帰りだぞー!」


「!!」

扉の向こうから男の声が聞こえてくる。
クロテさんとは違い、荒々しい雰囲気の男だ。


「おーい!開けろって!そこにいんのは分かってんだぞごらあ!」


「ひい!」

なんだこいつ!!
こんなのがクロテさんやオトハちゃんと知り合いなわけがない。
俺はそう確信をして、拳に力を込めた。



「寝ぼけてないで本当の寝床に帰れ!酔っぱらいが!」


俺が堂々とそう言ってやると一気に外が静かになる。
全く気配もしないし、帰ったのか?――と思った瞬間だった。



「―お前こそ、誰だ」


打って変わった神妙な声がして、俺は動揺する。


「えっと、お前に言うつもりはない!」

「っは!どうやって中に入ったかしらねーけど俺と居合せたのが運の尽きだなああああ!」



ドゴシャああああああん!!!



男の声とともに轟音が響く。
扉が勢いよく内側に倒れ込んできたので、咄嗟に避けた。

しかし、重いものが上からのっかかってきて呆気なく俺は床に倒れこんだ。


「ししし!観念しな~!」

「っ!離せ!」


声しか聞こえなかった荒々しい男が俺の上に乗っかかっていた。


自由にはねる赤い髪、切れ長で鋭い動物のような赤い瞳...
クロテとはまた違ったタイプだが、こちらも整った顔をしている。


俺が暴れても全くビクともしない。この男、かなりの馬鹿力だ!!

そうしてもみ合っていると冷水のような声が上から降ってきた。



「何してる、ジョーカー」


「オトハちゃん!!こっちにきちゃダメだ!」

廊下から小さな頭が顔を出していた。
ゴミでも見るかのように俺たちを見ている。


「あ、ちびすけ。今日は漏らして泣いてねーか?」

「...っ!!!」



ビュッ!!



風を切るような鋭い音。
その音を合図に俺の上にあった重しがなくなった。


「おっとぉ・・・あぶねーあぶねー」


あの一瞬で、オトハちゃんはその細い腕では支えられなさそうな大きな武器を、ジョーカーと呼ばれた男に突き立てていた。その武器は死神の鎌のような形をしていて、刃の部分だけでもその子の身長ほどの長さはある。ていうかそんな物騒なのどこに隠してたんだ!!?

まったく。
俺の頭の前でそんな危ないの、振り回さないでくれ。



ギリギリギリ...っ



「...っつ!!」


オトハちゃんが可愛らしい顔を歪めて鎌を握りしめてる。
どうしたのかと思ったが、どうやらジョーカーの方が上手だったらしい。鎌がそれ以上進めないように刃のないところを器用に指を置いていた。



「あの。オトハちゃん」
「っ?」
「この人、知り合いなの?」
「...」

ブンブンと頭をふった。
ツインテールの毛先がふさふさと頭上を舞う。


「こんな女好きで乱暴で馬鹿で変態で馬鹿で女好きな男、知らない」


今まで聞いた中でも一番に長かったそのセリフに感動しつつ(こんなに喋れるんだ)、その内容に愕然とする。いろいろと重複してたけどあまりいい内容じゃない。


「でも知り合いなんだ...」

「そうだぜ?俺様はここのメンバーだっての。お前こそ誰だよ」

「俺は...居候です。一週間だけここでお世話になってるんです。」

「へえ~?」


ジロジロと見てくる。
鎌の刃を首に当てながらというおっかない状況なのに、平然としてるところがまたすごい。



「ったく、またクロは変なの拾ってきて...」

「な!」


ジョーカーは必要以上にはだけてる胸元から煙草を取り出し火をつけた。


「猫みたいに言わないでください!」
「同じものだろうよーどうせタダ飯食って寝てるだけなんだから」
「むむむ!!」


確かにそのとおりだ。
いくら後で返金するとしても、クロテさんの好意に甘えてるだけで本当にいいのか?


「それは、ジョーカー、も」


俺が言い返せないでいるとオトハちゃんが口を開いた。
びっくりしてる俺とジョーカー。

今のってまさか俺をかばってくれたとか、そんなわけないよな・・・?



「俺はちゃんと働いてます~」
「うそだ」
「嘘じゃねーし!見えないだけで俺は俺なりにやってんの」
「・・・」
「...はは、ありがとうオトハちゃん」
「......別に」
「とりあえず僕はここを片付けるとするよ。目の前の出来ることから一つ一つこなしてくね」
「...」


プイと顔をそらし、返事もせずに去っていった。
そのいつも通りすぎる姿に苦笑したあと、起き上がる。

近くにあった扉を持ち上げようとした、が意外に重くなかなか持ち上がらなかった。

ふとその扉が軽くなり、元の位置に戻っていった。


「非力だなーお前」
「うるさい」

どうやらジョーカーが手を貸してくれたようだ。
お礼を言おうとしたのに間髪入れず憎まれ口を言われ、結局言えず終いだった。


「まあ、いいや。おまえ、」
「レオナです」
「ああ、レオナな。レオナこれをクロに渡しといてくれ」

「俺なんかに、渡していいんですか」

さっきまで斬りかかってきそうな雰囲気だったのに。
今じゃすっかり警戒を解いてるし。

受け取った手紙を見ながら俺は呟いた。



「オトハは人の本性を見抜く。それで言えば、お前は大丈夫なようだし、な」


にやりと口角を上げて笑った。
クロテさんは絶対やらなそうな悪い奴っぽい笑い方だな、とか思いながら俺は手紙を握り締める。

少し誇らしげな気持ちだった。
あからさまに嫌われてると思ったのに、認めてくれてたんだオトハちゃん。


「じゃあ、俺は行くから、扉は直しとけよ~」

「あんたのせいだろーってもういないし」


嵐が去ったように静まりかえる玄関に立ち尽くす俺。

そして何かに気づいたかのように俺は掃除道具を取りに走る。




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