ユールクラップの愛
「……あの」
「うん?」
「…何でここにいらっしゃるんでしょうか」
私がよく行っている喫茶店で、本を読みながら座っていると、『隣いいですか?』と言われたから『いいですよ』と本から視線を外さずに言った。
そう言ったさ。
それは覚えてる。
でも、
「こんな所にいたらダメでしょう」
サングラスも何も変装せずに呑気に…いや、優雅にコーヒーを飲む姿に若干ドキッとしつつも、私はそう言う。
THE ACEは今をときめく国民的バンド。
この12月のクリスマス直前となれば、年末の特番番組なんかでも引っ張りだこだろうに。
何でこんな所で油を売っていられるのかがわからない。
「春陽ちゃん、何読んでるの」
「だから、」
「もう見ず知らずじゃないでしょ。さっき、楽屋で会ったし」
…もう怒る気にもならなくなった。
こんなに笑顔で、『何も言わせねえぞ』というような完璧な笑顔で言われたら、そんな怒る気にもならないのではなく、なれない。