Taste of Love【完】
午後一時。風香はせわしなく試作品を会議室に並べていた。

風香が企画した“召し上がれシリーズ”は普段手づかみで食べがちなシュークリームやエクレアを、よりリッチに仕上げてスプーンやフォークで食べるというもの。

なかでもまるでモンブランのような安寧芋を使ったシュークリームは風香の自信作でこのシリーズでの目玉になると確信していた。

資料の準備もできた。

まだ誰も来ていない会議室で大きく伸びをして、椅子に腰かけ「はぁー」と息をはく。

「大丈夫か?」

背後から声をかけられて、背もたれにもたれたまま首を真後ろに倒す。

そこには翔太が立っていて「なんて格好してるんだよ」と呆れた顔をしていた。

「お疲れ様です。大丈夫ですよ。準備ばっちり。気合十分!」

ピースサインを向け笑顔をつくるが、翔太の顔は心配をしたままだった。

「無理してる時の顔してるぞ」

(あぁ、この人にはこんな小さなことまでばれてしまう)

隠しても仕方ないと思いつつも心配をかけないように明るくふるまう。

「昨日まで必死で試作してたんで疲れてはいます。でも大丈夫です!」

「無理するなよ」

そういいながら風香の前髪をクシャっとした。

(それだって高校の時から変わってないじゃん)

体が記憶している翔太の行動に戸惑うけれど、それを振り切るように頭をぶんぶん振る。

「もうそろそろですよね。ちょっとお手洗いにいっておきます」

二人きりの空間に気まずさを感じ、風香は会議室を後にした。
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