Taste of Love【完】
「俺からちょっといいですか?」

前のめりで説明する風香を翔太が割って入った。

「この雑誌を見てください。今回の協力者浅見さんの店『パティスリーアサミ』が掲載されています」

企画部長と常務の間におかれた雑誌をふたりが覗き込んでいた。

「他の店は、かなり大々的に掲載されていますが、彼の店は取材自体を受け付けていません」

「あぁ、そのようだね。店の名前しか出てない」

「取材ができないにも関わらず、名前とホームページのアドレスだけでも掲載したいと記者が書いています。それ
ほどに彼はこの業界でも認められているわけです」

風香も確かに大悟の作るケーキは見るだけでもすごいと思う。店に行くと人でいっぱいだったりショーケースがガラガラで売り切れていることもしばしばだ。

口にすることはできないが、彼のケーキの見た目の繊細さや優美さは最近見たどのケーキよりも優れていることは風香にも分かった。

「その彼を全面に押し出して宣伝をすれば効果は期待できます。宣伝費のコストカットの資料を準備しましたので、こちらをみてください」

涼しい顔をして資料を配り始める。

(え?どういうこと。事前に準備してくれていたの?)

風香が翔太の方を見ると「コクン」とひとつ頷いた。

(ここは翔太に任せよう)

風香は黙って資料を見つめ、翔太の話に耳を傾けた。

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