何度でも、伝える愛の言葉。
澪は突然見知らぬ4人の男子に見られ、当然だがかなり警戒していた。
そしてしばらく俺たちを見た後、ちょうどお弁当ひとつ入るくらいの小さなトートバッグを抱えて、早足に来た道を引き返し始めた。
『あ、ちょっと待って!』
『おい、悟!声かけろよ!』
『え、俺!?』
「バカ、声が大きいんだよ!」
あーだこーだ騒いでる間にどんどん遠くへ行ってしまう澪に、最初に声をかけたのは俺だった。
「日々野さん!」
『………?』
「…だよね?」
俺の声に恐る恐る振り返った澪は、俺の問いかけにこくんと小さく頷いた。
毛先をクルンと内巻きにした、ギリギリ肩に届くくらいの綺麗な黒髪がサラサラと落ちて表情を隠す。
でも、戸惑っていることはハッキリと分かった。
「ごめんね、突然声かけたりして。でも怪しい者じゃないから!」
俺の必死の問いかけにも、澪はなかなか警戒を解かない。
「俺ら普通科の3年なんだけどさ、こいつ、知ってる?こいつは通信の3年で。」
『北見悟。前に中庭でエアギターしてたときに…。』
そう言ってエアギターをした悟を見て、澪は『あぁ』と思い出したように口を開けた。
『あ、思い出してくれた?』
澪はまた小さく頷くと、やっと俯いていた顔をあげて俺たちを見た。
…人を、信用していないような目。
意味不明だと思っていた悟の言葉は、実はこれ以上ない程に見事な表現だったのだと俺は思った。
恐らくメンバーも、そう思ったに違いない。
大きくてゆらゆらと揺れる瞳の奥には、簡単には晴れない陰のようなものが確かにあった。