ショート・ショート集

最後の日、どんなに彼を引きとめようとしても、彼の心は、もう私にはなかった。


彼にフラれてからも、私は「チュバルク・ウィンストン」の指輪をまだ持っていた。未練が少し残っているという事もあったが、それよりも、どう処分していいか分からなかったからだった。


ある日、友人の麻紀にあった。麻紀は私と正反対で、派手なブランドで固める「お水」をやっている子だ。

「アンタそんな指輪持ってちゃダメだよ!・・・・あ!そうだ!それアタシに頂戴よ!」

「え?麻紀がするの?」

「まさか~!職場で、アタシに貢物をくれる客にあげるのよ!」

「え!?・・・でもコレ女物だよ?それにイニシャルも入ってるし・・・」

「大丈夫!大丈夫!ウマいこと言えば!・・・アタシはお金を掛けずにお返しをして、そんでまた高価なモノを貰うの。どうせ、あげた男だって、ウマいこと言って、また他の女にあげるんだから」


私は、麻紀の話に乗った。どうせ他に女を作った男に貰ったモノなのだから、麻紀経由で、そういうつまらない男にくれてやろうと決心した。



それから1ヵ月が経ち、私は彼をわすれようと、仕事の鬼になっていた。今日もとても疲れて家に帰った。家のドアの前に立つと、何とも素敵な香織がする。

(今日はカレーだ!)私はドアを開いた。

「ただいまー!」

「世界に~1人だけ~の『た~か美』~~♪」

「あれ?お母さんどうしたの?今日はノリノリだね!」

「そうよ!今日は結婚記念日だモン!ほら見て!キラリーン!」

「ん?・・・あ!それ!!!」

「いいでしょ~、お父さんに貰ったの!コレなんて言ったっけ・・・チュパ・・・チュ・・・まぁいいわ!いいでしょコレ!テヘッ!」

「お帰り、たか子。コレ高いんだぞ~。お母さんの『たか美』で、イニシャル『T・K』も入れてあるんだ」


おしまい。
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