box of chocolates
 結局、八潮さんに連れられて馬主席に案内された。
「やぁ! また会ったね」
「こ、こんにちは」
 私は、御幸さんに深々と頭を下げた。それにつられて両親も会釈をした。
「杏のお父さんは、数々の受賞歴がある、パティシエです。今日は、揃ってダービー観戦だそうです」
「どうも、はじめまして。川越です」
 迫力満点の御幸さんに、ふたりは圧倒されていた。
「ここで会ったのも何かの縁。ゆっくり観戦なさってください」
「ありがとうございます」
 おかしなことになったが、ここからだとゆっくり観戦できるのは確かだ。

 御幸さんの所有馬ミユキングは、ニ歳時に重賞レースを勝っているニ歳王者で、今日も一番人気に指示されていた。対するストレプトカーパスは、ニ歳時に無名で、クラシック候補から外れたこともあり、七番人気だった。
「一枠一番で一番人気。ミユキングは勝ちそうな気配がするね」
「競馬はやってみないとわからないですから」
 得意気に言う八潮さんに反論するかのように、私が呟いた。ただのレースじゃない。私と貴大くんの未来をかけた、重要なレースなのだから。
「枠入りが始まった。もうすぐですよ」
 府中の杜は、大歓声に揺れた。まもなく、運命の日本ダービーが幕を開ける。



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