box of chocolates
 食事を終えて、風呂に入った後、母が部屋にやってきた。
「今日は、ありがとう。フランスの話、お父さんにしてくれたの?」
 フランス修行をプレゼントするように話したのはきっとお母さんだ。そう思って聞いた。
「違うわ。お父さんは、ね、杏に申し訳なく思っているのよ」
「お父さんが? どうして」
「お父さんは、貴大くんがダービーであそこまでやれるとは思っていなかったのよ。見せ場なく、あっさり負けて。やっぱり勝てませんでした、でも、杏とは付き合いたいです。そう挨拶しに来ると、思っていたみたいよ」
 何も言えなかった。貴大くんは真面目に約束を守ったのに。見た目が子どもみたいだから、頭の中も子どもだと思われていたのかもしれない。
「それが、あんなに頑張っても勝てなくて。負けは負けと、潔く別れた。杏はふさぎこむし、だからと言って、振り上げた拳をおろすこともできない。それで、フランス修行を思いついたみたい」
「でも、私が修行したからって。貴大くんとの仲を認めてもらえるわけじゃない」
「今すぐは無理だろうけれど、杏と貴大くんが別々の場所で、お互いに頑張っている姿を見れば。お父さんから何か言ってくるはずよ」
「そうかな」
「そうだよ。だから、頑張りなさい」
 母さんは、私の手をぐっと握った。その温かい手に、嘘はないと思った。温かい手をぐっと握り返して、強く誓った。

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