box of chocolates
 マレ地区まで歩いて、昼は、ご夫婦がお気に入りでよく連れて行ってくれるカフェに行った。サンドイッチを注文すると、ワンプレートにサラダやポテトもついてくるので、ふたり揃ってそれを注文した。
「貴大くん、大丈夫? お腹空かない?」
 私と同じ量しか食べない貴大くんが気になった。目の前の貴大くんは、幸せそうに食べていた貴大くんとは別人のような食べ方をしていた。
「うん……」
「本当に? 体調、良くないんじゃない?」
「大丈夫だよ……」
 貴大くんは、言葉を濁した。なにか隠している気がしてならなかった。
「それより、杏ちゃん。プレゼント、何を買うの?」
「プレゼントより、貴大くんが気になるよ」
 残り少なくなったポテトを、流し込むようにして一気に食べると、空になった皿に視線を落とした。
「食べられなくなったんだよ。別れてから」
 貴大くんは苦笑しながら、渋々理由を話した。
「ごちそうさま。さぁ、行こうか?」
 貴大くんは、さっきとは違う、明るい笑顔を見せて席を立った。私もそれに続いたけれど、笑うことができなかった。

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