box of chocolates
 二十時に店を閉めて、家族で晩ご飯を食べる。私は菊花賞の結果を気にしながらも、母を手伝って、テーブルに晩ご飯のおかずを並べた。
「いただきます」
 食事をしていてもなんだか落ち着かなくて、急いで食べ終わると、部屋に閉じこもった。そしてドキドキしながら、競馬情報サイトをチェックした。私は、スマホを握りしめたまま、言葉を失った。
『菊花賞(京都)GⅠ
ストレプトカーパスが優勝』
 その文字とともに、ゴール前の攻防が掲載されていた。黒鹿毛の馬体が、頭ひとつ抜け出ていた。
「勝った」
 今回は、優勝すると信じていたけれど、競馬に絶対はないし、ニュースを見るまで確信は持てなかった。
『ダービーの時は、自分の力が足りなかったせいで負けたので、菊花賞で優勝できて本当に嬉しいです。よく頑張ってくれました』
 貴大くんの優勝コメントを読んで、胸が熱くなった。今すぐ会いに行っておめでとうと伝えたかった。でも今は。ファンとして、そっと見守ることしかできない。
「おめでとう」
 スマホに向かって呟いた。



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