box of chocolates
 駅に着いたと連絡をもらい、少し緊張しながら迎えに行った。久しぶりにふたり、肩を並べて歩く。なんだか胸の奥がくすぐったい。それに、あまり見慣れないスーツ姿にもドキドキする。会話が続かない。何から話していいのかわからない。いつもの私なら、沈黙に耐えきれず、何か言葉を探すけれど、今日はいらないと思った。貴大くんが、信号待ちでさりげなく手を繋いだ。その手は今日も温かくて、私の心まで温かくさせた。
「幸せ」
 思わず、そう呟いた。ただ、ギュッと手を繋いでくれるだけで。そして、また無言になった。手を繋いだまま、ゆっくりと歩いて家に向かった。いつもの見慣れた店が見えてきた時、貴大くんが立ち止まり、繋いでいた手を離した。

「待たせてごめん」
 
 ううん、大丈夫。

 そう言って笑顔を見せたかったけれど、震える唇を噛みしめて、首を横に振るのが精一杯だった。

「ありがとう」

 そう呟いた貴大くんの、大きくて綺麗な目から、ひと筋の涙が零れた。

 こちらこそ、ありがと。そう返してあげたいのに言葉にできない。今日は、とびっきりの笑顔を見せていたいのに、お天気雨のように、涙の笑顔になった。貴大くんは、微笑みながら自分の涙を拭くと、細い指で私の涙を拭って、ギュッと手を繋ぎ直した。

「一緒にドアを開けよう?」
 
 定休日の札がかかった店のドアを、ふたりでゆっくりと押し開けた。いつもはただの店のドアだけれど、今日は、未来に繋がるドア。そのドアの先には、まだ見ぬ未来が広がっている。そう、ふたりで造る、幸せな未来へと……。






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