box of chocolates
 翌日、いつものように仕事をしているつもりなのに、他のスタッフから『何か良いこと、あったの?』と聞かれた。昨日のバーベキューの余韻に浸っていると、なんだか楽しかった。それが表情に出ているようだった。
 カランカランと、店のドアが開く音に、「いらっしゃいませ」と、テーブルを拭きながら振り向いた。珍しいことに、何の連絡もなく、兄が突然、帰ってきた。
「どうしたの?」
「いや、なんだか無性にガトーショコラが食べたくなってさ」
 兄はそう言いながら、照れ笑いを浮かべた。たまたまお客様がいなかったから、テーブル席に座らせた。
「突然来て、悪かった」
「それはいいけれど、泊まっていく?」
 ガトーショコラを運んできた母が、兄に聞いた。
「うん。明日、休みを取ったから」
「そう。食べたら、部屋でゆっくり休んでね」
「ありがとう。あー、おいしいな。やっぱりうちのが一番だわ」
 兄は、満足げにガトーショコラを平らげた。



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