box of chocolates
 戸田さんが急に立ち止まり、繋いでいた手を離した。
「ちょっと待っていて?」
 私にそう言い残し、人ごみをかき分けるようにして歩いて行った。そして誰かに話しかけた。しばらくすると、その男性と一緒に、戸田さんが戻ってきた。
「はじめまして。厩務員の加須と言います。川越さんにはいつもお世話になっております」
 細身で長身の加須さんと名乗る男性が、私に軽く会釈をした。わけもわからず会釈を返した。
「川越さんは、あちらにいますから。さぁ、一緒に行きましょう」
「あの。兄は、大丈夫なのでしょうか?」
「今のところは、なんとも……」
 加須さんは、少し顔を曇らせた。もしかして、意識がないとか、最悪の場合は。嫌なことばかりが頭をよぎり、不安な気持ちでいっぱいになった。
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