box of chocolates
「川越さん」
 加須さんに連れられてきた部屋のベッドに、兄が目を閉じて横たわっていた。
「やっと搬送先がみつかった?」
 兄がそう言いながら目を開けた。
「お兄ちゃん!」
「あ、杏。ごめんな。誕生日なのに落馬なんかして」
「私のことはいいの! お兄ちゃん、大丈夫?」
「幸い、頭を打ったりしなかったから。でも、痛い! どこかの骨、折れているかも?」
「そんな……」
「痛いけれど、大丈夫だから。心配しなくていいよ。この埋め合わせは必ずするから」
 埋め合わせなんていいから、一日でも早く完治しますように。今は、そう祈るしかない。

 



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