box of chocolates
 七月の最後の日曜日、私は、休みをもらってはるばる函館までやって来た。函館に来るのは初めてで、ひとり旅も初めてだった。空港から競馬場までの循環バスが出ていたので、それに乗りこんだ。競馬場に着くまでの間、晩ご飯をどんな店で食べようか、スマホで検索をしていた。せっかく函館に来たんだから、競馬だけじゃもったいない。

 競馬場に着いた私は、レーシングプログラムをもらって、さっそくパドックに行ってみた。ちょうど騎手たちが、自分の馬に跨って周回しているところだった。レーシングプログラムには、レースごとの出馬表が載っていて、戸田さんがどのレースでどの馬に乗るか、すぐにわかった。
「杏?」
 聞き覚えのある声に呼ばれて振り向いた。声の主は、八潮さんだった。
「どうして、こんなところに」
「杏こそ」
「わ、私は、友達が……」
「友達? ああ、誰かと一緒に来たの?」
「八潮さんは、誰かと一緒ですか?」
 これ以上、答えたくなくて、逆に質問をした。
「オレの話は長くなるから、何か飲みながら話そうか?」
「はぁ」
 おかしなことになってしまった。





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