box of chocolates
 戸田さんは、目を丸くしたまま。口はポカンと開いていた。
「なんかスッキリした! ありがとう、戸田さん。ホテル、すぐそこみたいだから、またね」
 戸田さん、やっぱり私のことはただの友達だと思っていたんだな。でも、これでいい。函館まで応援に来た甲斐があった。
「あっ、ちょっと待ってよ!」
 背を向けて歩き出した私を、戸田さんが呼び止めた。
「それ、オレが言わなきゃいけないことだよ」
 私は、恐る恐る振り返った。月明かりと星屑の下で、都会みたいな人工の光が少ない中、戸田さんがどんな表情をしているのか、よく見えなかった。
「川越さんが好きだ。付き合ってほしい」
 きっと、耳まで真っ赤にして、そう言ってくれたに違いない。
「ありがとう」
 戸田さんの飾りのない、ストレートな想いは、私の胸に真っ直ぐ伝わった。
「ほらっ! ホテルすぐそこ! 早く! 早く行って」
 急に恥ずかしくなったのか、戸田さんが手で私を追い払うようにして、ホテルに向かうように促した。私は、目と鼻の先にあるホテルまで向かうのに、何度振り返ったかわからない。戸田さんは、私がホテルに入っていくまでの間、同じ場所でずっと立って見送っていた。そんな戸田さんをかわいい人だと思った。


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