box of chocolates
ランチのあとはドライブをして、家まで送ってもらった。
「ありがとう。次は、火曜日に、ね」
「うん」
 本当は、もう少し一緒にいたかったけれど。貴大くんは朝が早いから、そろそろ帰してあげないといけない。
「またね」
「杏ちゃん!」
 シートベルトを外し、車から降りようとした時に呼び止められた。振り向くと、貴大くんが何か言いたげに私を見ていた。
「あ、あの。もう少し一緒にいたい」
 控えめに呟くようにして言った貴大くんが、愛しくて仕方がなかった。そんな彼の唇を私のほうから奪った。
「明日も早いんだから、これで我慢してよね!」
 そう言うと、冷えた私の手を貴大くんの温かい手が包んだ。心臓が飛び出しそうなくらい、ドキドキした。
「今のは唇が触れただけだよ? もう一度」
 目を閉じると、お互いの唇が重なり合った。胸の鼓動が早くなり、その音が貴大くんに聞こえるんじゃないかと思った。唇が離れると、恥ずかしくて目をそらした。
「じゃあ、また」
 貴大くんも恥ずかしいのか、急によそよそしい態度になった。もう少し、一緒にいたかったけれど、優しいキスに満足した。
「またね」
 私は、目を合わすこともできずに、車から降りた。唇には、貴大くんの温もりが残った。
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