box of chocolates
「オレは、今でも杏が好きだ」
 鼓動が早くなった。怖くて顔が見られず、一点を見つめていた。
「最初は強引に、自分の気持ちばかりを優先して。すまなかったと思っている。でもそれは、杏が好きだから」
「八潮さんが好きなのは」
 八潮さんの言葉と重ねるかのように、力強く言った。私の体が好きなんでしょう? そう言いかけて、口を閉ざした。
「椿のこと?」
 そう聞かれて、吉川さんの姿を思い浮かべた。スラッとしたスタイルで、長い髪を束ねたうなじに色気を感じた。仕事もできて、女性からも憧れの存在。あんなに素敵な女性がいるのに、どうして私なんかを追いかけるのか。不思議でならなかった。
「それもありますが、私は貴大くんが好きなので」
 私は微笑んで、席を立とうとした。
「椿とは、もう関係を持たない」
私は、立ち上がったまま凍りついた。
「信じられないです」
 テーブルをみつめたまま呟くように言った。
「オレは、杏だけをみつめる。だから」
 私は、恐る恐る八潮さんに視線を送った。すぐに鋭い視線に捕まった。
「オレと付き合って」
 ずっとずっと欲しかった言葉。だけど、貴大くんと付き合い始めて、幸せに包まれた今、その言葉は聞きたくなかった。
「今さら、そんな……」
「結婚を前提として、真剣に付き合ってほしい」
 八潮さんは、私を射止めるかのような言葉を放った。言葉に詰まり、ただただ八潮さんをみつめることしかできなかった。

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