box of chocolates
揺れる心
 その夜私は、ベッドでゴロゴロしながら、ランチタイムの出来事を思い返した。あの鋭い視線に捕まり、ハッキリと断ることができなかった。貴大くんのことは好き。だけど、まだ八潮さんが好きなのかな、私……。全く気持ちが無ければ、あの鋭い視線に捕まったとしても『貴大くんがいるから』と断れたはず。
『返事は、急がない。杏の気持ちが決まってからでいい』
 あんなに強引だった八潮さんの態度が、急に変わった。八潮さん、次は遊びじゃないってこと?
貴大くんと付き合い始めてまだ数ヶ月。まだどんな人なのか、わからないところもある。対する八潮さんは、自分の店を持ち、数々の洋菓子コンクールで輝かしい実績を残す、若手パティシエだ。同じパティシエとして、尊敬するところも多い。
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