疑惑のグロス

「おばちゃん、本当にお花好きだね」


リモコンでチャンネルを変えながら、当たり障りのない話題でゆたの機嫌を伺う。


「うん。時々、会社にも花を持って行かされるよ」

「げっ!あんた、スーツで花持ってくの?」

「そうだよ。持ってく日の朝飯の時には、かあちゃんから花言葉を教え込まれるおまけ付きで。

そんなの、会社で披露する場がないっつーのにさ」


あのパワフルなおばちゃんに反撃なんてあり得ない。

スーツでチャリにまたがり、手に花束を持って漕いでるゆたの姿は、容易に想像が出来た。


心優しいと言えば美しい表現だけど、自分を押し出せない弱さがある。

だからおばちゃんに強く言われると泣いてばかりいたし、私の言うことには従順だった。

優しいのと気が弱いのは違うとは思うけど、ゆたは前者の要素が強い気がするわ。


……って、決してかばってるわけじゃないから!

自分より小さな子にはとても優しく接していたし、人をいじめたりけなしたりなんて絶対にしなかった。

ずっと見ていた私だからこそわかる事だ。


こないだ私に反論したのも、ゆたにしてみれば、立派な成長ってことか。

いつまでも小さい時の鼻タレのままじゃ、彼女だってできやしないものね。

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