疑惑のグロス

家のチャイムが鳴ったのは、午後9時を30分ほど過ぎた頃だった。

音を鳴らした主が誰だかすぐにわかったけど、わざと部屋から出ないまま、テレビを見ていた。


数分後、階段を上がる音が複数人分、聞こえてくる。

最後の一段をあがるミシッという音がしてすぐに部屋のドアが開いた。


「苑美、由鷹くんよ。

あんたが呼びつけたんだから、お出迎えくらい出てきなさい」


お母さんがぶつぶつ言いながらゆたを連れてきた。


「もう、知らない家じゃないんだから、勝手に上がればいいのに」

「そうも行かないよ、子供じゃないんだから」


ゆたは、こないだのことをまだ怒っているのかな。

喋り方もいつもより少しぶっきらぼうに感じるけど……気のせいかしら。


「そうそう、由鷹くんからお花貰ったの。おばちゃんに会ったらちゃんとお礼言ってよ」


お母さんは、手に持った白い花をちらっと見せると、静かに部屋のドアを閉めた。

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