芸術的なカレシ






会場のレストランには明日香と一度行ったきりだったけれど、案内メールに添付されてあった地図を見てすぐに思い出せた。

ワンピースにコートを羽織って駅から電車で行く。
誰に見られてるわけでもないのに、無意識に背筋が伸びる。
いつもと違う自分になるって、何だか凄い。


履き慣れていないヒールだけど、そんなに高くないから何とか歩けそうだな。
飲みすぎて終電逃したりしないようにしなきゃ。
こうくんが迎えに来てくれるって言ってたけど、あんまり甘える訳にもいかないし、拓とバッタリ鉢合わせなんてのも気まずい。


パーティーは夜6時から受付。
時間にも余裕がある。
明日香のために小さな花束を買って会場に向かった。
赤い薔薇。
明日香には薔薇が一番似合う。


会場に着いて受付を済ませると、大学の友人何人かと会った。
拓の姿はまだない。
立食パーティーになっているので、窓際のテーブルに何人か集まった。
みんな久しぶりで、話に花が咲く。


そういえば、イズミは元気なのー?と、拓の話題になると、やっぱり私の胸は軋んだ。
最近会ってないんだーと言うと、何人かはそれで察してくれたようだった。
それからは大学時代の思い出話で盛り上がる。
明日香の男ぐせの悪さも話題になった。


会話が弾んでいても、私は入り口の方が気になって仕方がない。
誰と話していても、意識は自然にそちらへと行ってしまう。

いつ、あの受付から拓の顔がひょっこりと現れるのか。
気が気ではなかった。






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