芸術的なカレシ





私の涙は瞳を覆って、目の前がどんどん歪んでくる。


「泣くなよ、瑞希」


そのゆらゆらする不安定な視界の中で、拓が微笑んでいるのがわかる。
いつも減らず口ばかり叩いている、拓の分厚い唇。
大きくてシュッとした鼻。
右の目尻には、大きなホクロ。
見慣れた彼氏の顔。
いや、むしろ、見飽きてる。
見飽きてるけど、大好きな、拓。



「うう……だって」


そう、だって。
この10年、色んなことがあった。

別れ話は何回出た?
浮気疑惑は何回あった?
喧嘩なんて数え切れない。
笑えない話だってある。

大学2年の夏に、友達の紹介で知り合った。
学部は違ったけど、同じ大学だった。
友達6人で集まった飲み会。
(いわゆる合コン)
最初は優しかった。
あの頃はサッカーに夢中だった拓。
汗でキラキラ輝いていた、拓の日焼けした黒い肌。
眩しかった。
誰にでも笑顔で接して、冗談で盛り上げた。
その日の内に連絡先の交換をした。
何度かデートを重ねて。
拓から告白されて、速攻O.Kした。
一目惚れだったんだ。
多分、お互いに。






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