芸術的なカレシ





あああああ。
嫌だ。
声にならないイライラが渦を巻く。

私はいつだってそうだ。
もっと感情的に、なんならヒステリックに。
拓を責めてしまえばいいじゃないか。

なんなのよー!
二人で何やってたのよー!
私を笑い者にして!
いい加減にしなさいよー!
私の10年を返せ!!

飯を食いに来た拓に、玄関先で一発お見舞いしてやればいいんだ。
渾身の力で。
拳に全体重をかけて。

けれど、それができない。
私という人間は、いつもそういうことができないのだ。

だって格好悪いもの。
感情的になって取り乱すなんて。
情けなくて、30にもなって。
子供じゃないんだから。

無駄な美学が、私を物分かりのいい、都合のいい女にしてしまう。


ああ、そうか。
だから拓は、私と別れないんだ。

芸術家には、うってつけの彼女なんだろう。
自分のスペースには入り込んでこない。
けれど自分はズカズカと入っていける。
ちゃんと仕事しろ、とも言われない。
結婚も要求されない。

ああ、私ってば、何て都合のいいオンナ。


被害妄想は止まらない。
ぐるぐるぐるぐる。







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