clover's mind
「ちょっとねぇ、なんかこのあたりってホラ、クローバーがたくさん咲いてるじゃない?」

 いわれて土手を見渡す。

 確かにここにはいたるところに無数の三つ葉のじゅうたんが敷きつめられている。

 そしてところどころ雪を散らしたかのように白い花が咲きほこっていた。

 夕暮れ前で河の冷気を帯びた風が吹き上げるとその白詰の花や葉は笑いあい、肩をゆらすようにさやさやと身を躍らせる。

 同じように土手に視線をやっている彼女の横顔を気付かれないように横目でみる。

 頬にかかる髪を風で乱さないために右手で左耳を押さえるようにしてかばう仕草が、まるで何かを祈っているみたいだ。

 少し細めた瞳には憂いすら見て取れるような気がした。

 腕でかくれた唇はかみしめるようにひき結ばれているのだろうか。

「四つ葉のクローバー、ありそうじゃない?」

「は?」

 髪を押さえていた手をどけると新しい玩具をもらった子供のような、にっ、と形作った唇と白い歯が現われた。
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