チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
「…石を、目印に歩いてくれる?」
「石?」
「うん。人が二人座れるくらいの、椅子みたいな」
理由は聞かなかった。そんなの必要ない。
「わかった」
マモルが望んでる。
今のあたしにとって、それ以上の理由はいらなかった。
…歩いている間は、二人とも特に何も話さなかった。ただ、マモルの手のひらが温かくて、それだけで。
たまになぞる風が、二人の髪を舞わせた。
「あ…あの石かな」
しばらく歩いた所に、マモルが言ってた様な石があった。
幸い周りに人はいない。
ゆっくりとマモルの手を引き、その石の側に行った。
「あってる?」
マモルを見上げる。
マモルはどこか懐かしそうな表情で、そっとその石に触れた。
何かを探すようにその手が動く。
「あ」
呟いて、微笑んだ。
「ここ、見て」
マモルに言われて、「うん」と視線をやる。
石の上に、『サクラ、マモル』。少し視線をずらしたら、側面に『ケースケ』とあった。
「名前?」
「そう、高校の時彫ったんだ。咲羅に誘われて。…まだ残ってた」
見えない目を閉じて、指でその文字をなぞった。
"サ・ク・ラ"、と。ゆっくり。