チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

「座る?」

マモルが言った。なんだか神聖な場所の様で少し躊躇ったが、マモルがゆっくり座ったので、あたしも隣に座った。

「…名前彫ったの、さっき言ってたホタル祭りの日?」
「うん。俺が川に落ちた日」

ははっと笑うマモルに、あたしも倣って笑う。

「…あの頃さ。俺も啓介も咲羅のことが好きで。咲羅はちっとも気付いてなかったけど」

ゆっくり話し始めたマモルの横顔を、あたしは見つめた。
少し暗くなった光がぼんやりと彼の頬を照らす。

「咲羅が名前を書こうって言い出して、あいつが一番に書いたんだけど…何を思ったか、石の端っこに書いてさ。内心、俺も啓介も焦って。凄いしょうもない事だけど、どっちが咲羅の名前の横に名前を残す!?って」

懐かしそうな笑顔。その顔が少し切ない。

「でも妙なプライドがあって、先に名前を彫れなくて。啓介も同じだったのか、二人とも固まっちゃってさ。咲羅も『どうしたの?』って。でも…先に彫ったのは、啓介だったんだ。石の側面。表面じゃない、咲羅の反対側に」

そっとマモルが、側面に手をやったのが見えた。
井藤さんの名前を確認しているのかもしれない。
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