チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

「マモル、ねぇホタルだよ」

思わずマモルに声をかけて、そして気付く。

マモルには、あの光が見えていない。


自分の無神経さに嫌気がさす。


俯いてしまったあたしの耳に、マモルの声が届いた。



「…ほんとだ。ホタルだね」



ゆっくりと顔を上げ、マモルに向けた。


「…マモル」


…マモルは、目を閉じていた。

目を閉じて、瞼の裏で舞うホタルを見ていた。

それはきっと、いつか咲羅さんと見たホタルで。


締め付けられる胸と共に、あたしは再び川に視線を戻した。

ふわり、ふわりと小さな光が舞う。

同じ光だろうか。

今あたしの瞳に映る光と、マモルの中に浮かぶ光は。

同じように、こんなに輝いて見えるのだろうか。

沢山のホタル。

儚い光。

この世界の闇に浮かぶ、小さな希望が。


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