チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

…利用した。

マモルの言葉が、物凄い違和感と共にあたしの中に入ってきた。

あの優しさも、あの苦笑も、あの声も。

全部、利用だった?



二人の沈黙が闇に流れた。

手が触れているけど、その感覚がない。

気付いたらあたし達の体温は同化してて。

あたしの体温がマモルの体温に。
マモルの体温が、あたしの体温に。


「あーっ」


どこかで子供の声が聞こえた。
反対岸。目を向けると、小さな男の子が川を指差している。



「ホタルーッ」






…ホタルだ。


小さく、ふわっと、川の上を泳ぐ。


一瞬だった。一瞬、光が揺れた。


消えたと思ったら、少し先でまた揺れる。


小さな光が、ふわっ、ふわっと。



「…ホタルだ」



小さく、呟いた。


…初めて見た。


あんな小さな、優しい光。


あんな小さな、命を。


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