チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
「もしもし!?」
『…取るの早いって』
「だぁって待ってたんだもんっ。ね、早く聞かせて!」
急かすあたしに『わかったよ』と諦めて、ちょっと待ってねと呟いた。
しばらくしてカタンという音が響いた。多分、携帯を置いた音。
その後に続き、『下手だからね』と念を押すマモルの声も届いた。少し声が遠い。電話口から離れてるのだろう。
多分あたしの声は届かないだろうから、小さく頷いて目を閉じた。全神経を右耳に注ぐ。マモルがバイオリンを持って立ってる姿を、頭に浮かべる。
すうっと息を吸う音が聞こえた。
と同時に、小さな音が届く。
…思わず目を開けてしまった。目を開けていても、情景が浮かぶ。
綺麗な音。どこか切ない旋律。そして、とても優しい。
…マモルの音だ。
そう、思った。
もう一度目を閉じて、そしてその音に入り込む。
クラッシックなんか全然わかんないけど、それでもわかる。
これは、本当に綺麗な音楽だ。
本当に、優しい音楽だ。
すぐ側でマモルが奏でてくれている様な、そんな錯覚に囚われた。