チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
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次の日学校が終わってから、あたしは春樹にもらった地図を頼りに個展会場へと向かった。
地図は春樹のお兄さんが書いてくれたものだったので、凄くわかりやすかった。流石、あのお兄さんだ。
学校からそれ程遠くないその場所は、少し古く、どこかレトロチックな建物で。
なんだかとてもおしゃれだった。
軽く深呼吸をし、そのドアを開ける。
少し軋むそのドアの向こうは、つんと独特の匂いが漂っていた。
木と、絵の具と、それからミントの爽やかな香り。
あたしはこの匂いが嫌いじゃない。
「すみませーん…」
恐る恐る呼び掛けたが、その声は小さなアトリエに響き渡るだけで。返事はどこからも返ってこなかった。
おかしいな。時間間違えたっけ?
携帯とメモを見比べたが、時間はあっている。
中途半端に入っているのも気が引けるので、思いきって中に足を踏み入れた。
数歩歩き、辺りを見渡す。
少し薄暗いその部屋には、無造作にキャンバスが積み上げられている。
折り畳み式の椅子や机も、奥野壁に立て掛けられていた。
なんだか文化祭の準備を思い出す。