【完】天使の花〜永遠に咲き誇る愛を〜

「….….….….。」

言えない。

氷室部長には…。

あなたの部下の伊坂君の話を

花菜子から聞いて

さっきまで自分の彼氏だった人の

マンションに行って

浮気現場を見て来たなんて…。

しかも、2人の卑猥な現場まで

この耳で聞いて

この目で見て来たなんて…。

「野村さん、黙ってたらわからない。
何があったんだ!?」

氷室部長は私に返答を求めた。

「………。」

やっぱり言えない…。

でも、氷室部長の私に向ける

優しく、妖艶な瞳に

見つめられてしまうと

涙腺が緩みそうになる自分が恐い。


さっきたくさん泣いたのに…。

また涙が出そうになる。

さらに黙ってしまう…。

「…どうして、何も言わない?
俺に話せない事?」

なかなか口を開かない私を見て

氷室部長が私をジッと見つめたまま

「…野村さん?」

と、私の名前を読んで

「……なぜ、言わない?
どうして……。」

と、さらに言葉を続けようとした

氷室部長の表情が一瞬固まった。

そして

「…まさか。」

察知したように顔つきが変わり

「…まさか….….。笠置か?」

と、呟いた後

「…笠置の事なんだろ?
そうなんだよな?
野村さん……。
笠置の事で何かあったのか!?
なあ…そうなのか!?」

と、荷物を持っていない左手で

私の肩に手を置いて

何か言ってくれ…。

そう言いたげな表情で

私の瞳を捉え

真っ直ぐに見つめたまま

返答を待っている。

端正過ぎるその顔を見ると

恥ずかしいのに逸らせない…。

一瞬息を飲んだけど

私は、コクンと頷くしかなかった。
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