雨の夜長【短編】


耳を撫でてゆく音は、彼に似ていた。



読んでいた本から顔を上げて、目の前に深く腰掛けている若い男を私はいつものようにこっそりと盗み見る。



淡い照明の中に影を落とす彼の横顔は彫刻のように美しかった。
通った鼻筋、薄い唇、つり目がちの眼差し。色素の薄い瞳は橙色の灯りによってまるで琥珀のように深い色を湛えている。



ぼんやりと背景にとろける輪郭に、私は盗み見ていたことも忘れ、じっと彼を観察していた。



筋張った彼の右手が本のページを繰る音も、雨音によって掻き消えて



ここを支配する音が水が垂れる音だけになって



世界が狭く縮小してゆく



ああ、この世界にいる人間が
わたしと彼
二人だけだったらいいのに。



そこまで考えたところで
彼がそっと顔を上げた



その仕草がとても



母に、似ていた



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