雨の夜長【短編】

「……どうした?」



彼の唇によって紡がれた言葉と、先ほどの仕草によって世界はまた引き戻される



甘く魅惑的な幻想に近い世界から
荒んで色あせた酷く脆い現実へと



「なんでもないよ。……なんか飲む?」



自嘲気味な笑みを喉の奥に押し殺して、私は同い年の叔父さまに気前よく尋ねた。



「じゃあコーヒー。ブラックで」



少しだけ眉をしかめたその顔に思わず吹き出す。



「嘘。俊彦、飲めないじゃない苦いの」



「練習してるんだ。……彼女の父親の趣味がコーヒー集めらしくて」



……ああ、失敗した。
表情には出さずに心の中だけでひとりごちる。



「そっか、もうすぐ挨拶行くんだっけ」



立ち上がり、すぐ後ろにある台所へ向かう。
対面式キッチンじゃなくて良かった。
表情を、読まれなくて済む。



「なんで知ってるんだ」



「お母さんが言ってたから」



ああ、と彼がけだるそうに答えたのが耳に届いた。



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