【短編】羽根月
今、手を離せば
彼女が消えてしまう。

どんなに手や顔を引っかかれようと、どんなに彼女が泣き叫ぼうとも、オレは離さなかった。

──見ろ

これが現実なんだ

逃げても逃げても、現実が追ってきてるじゃないか。

もう里茉が狂い始めている。
  '記憶障害'

真奈から聞いた里茉の病気。その症状。

『脳腫瘍』が、彼女の脳の一部を圧迫し、それによって記憶障害を起こしていること。

今までどこか他人事のように思っていたのに、自分の目で初めて里茉の現実を見て…オレはショックだった。





本当に
里茉が死ぬ…?






「離して!ヤメテ!嫌…っ!!助けて!」

恐怖で震えながら、身体の芯から絞り出すような彼女の声。

「…っ…里茉ぁ…オレだよ…里茉…愛してる…」

彼女が怖いのなら、この腕を離してやりたい。
でも、できない。
彼女に何て言えばいいのかわからない。

どうすれば正気に戻る?

オレの声は届かない。
オレの愛は届かない。




すると、急に彼女の身体から力が抜けた。

「里、里茉!?」

里茉は意識を失っていた。

オレは慌てて里茉を抱きかかえ保健室へ行き、救急車を呼んでもらった。

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