【短編】羽根月
◆プロポーズ
その後、病院に運ばれた彼女は、目覚めた時は何も憶えてなくて

何事もなかったかのように母親と家に戻ったと、妹の真奈からメールがきた。

一応はホッとしたけど、オレはショックで何も考えられなかった。

完璧にテンパってる…

次の日から、オレは里茉にしつこいくらいにメールした。

【旅行に行きたい!】
とか

【何か欲しいものある?!】

とか。
できれば直接話したかったけど、さすがに彼女が嫌がるし…気付かれる。

でも何かしなきゃいけないと焦っていた。
なのに、里茉からの返信は皆無に等しい。

夜、オレは里茉が帰ってきた頃を見計らって電話をした。

「里茉!なんで返事がないんだよ!」

『仕方ないじゃないの!もうすぐテストなんだし忙しいのよ』

オレは苛立ちと焦りで、里茉に怒りすら感じるようになってきた。

時間がないっていうのに──なんで本人はこんなにのんびりしてて、オレだけ焦ってんだよ!

彼女は告知されてない。

だから言えないのに…言いたくなる。

もうすぐ死ぬかもしれないのに!って。

その言葉を飲み込んで、代わりに口説いた。

「頼むから…旅行に行こうよ」

『大地、ワガママばかり言わないでよ』
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