わたしから、プロポーズ


現場を担当するのは、私と広田さん、それに遥も選ばれていた。
遥たちが付き合っていることは、きっと瞬爾も知らないはずだ。
もし知っていたら、このメンバーをどう思うだろう。
なんて社内恋愛率の高い職場だと思うだろうか。

「坂下!」

さっそく打ち合わせがあるらしく、会議室へ向かう途中、背後から瞬爾に声をかけられた。

「伊藤課長•••」

そういえば、まだ付き合いたてで周りにも言っていなかった頃、こんな風に社内で名前で呼び合うだけでも緊張していたっけ。
でもそれは心地良い緊張感で、ますます恋心を加速させていたのを思い出した。

「課長、今回はよろしくお願いします。私、もう大丈夫ですから、遠慮なく厳しい言葉もくださいね。必ず成功出来る様に頑張りますから」

「坂下•••」

瞬爾は一瞬、戸惑いの表情を見せていた。
きっと、私の吹っ切れた姿が意外だったのだろう。
本当は、吹っ切れているわけじゃない。
ただ落ち込んでいない、それだけだ。
だけど、それを見せないのは、瞬爾に出会った頃の私を思い出して欲しいから。

そして、私も思い出したいから。
純粋に瞬爾を好きだった頃の自分を。
あの頃の私は確かに、全てが充実しているように感じていた。
恋も仕事も。
全てに前向きで、未来は明るいばかりだと思っていたのだ。

「ちょっと寂しいな。莉緒がそこまで吹っ切れているのは」

瞬爾が見せた寂しげな笑顔に、流されそうになる自分を奮い立たせる。

「課長、私情は禁物ですから。私、先に行っていますね」

そう言って足早に会議室へと向かう。
やっぱり、瞬爾の近くにいると胸のときめきを感じてしまった。
やっと分かった瞬爾への変わらぬ想い。
好きだという気持ちを、もう一度伝える為に今は辛抱の時だ。

ねえ、瞬爾。
私はどうしても、伝えたい気持ちがある。
それに気付いたから、もし受け止めてくれなくても、必ず伝えるよ。

それまで今は、距離を置く。
どんな想いに駆られても•••。
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