わたしから、プロポーズ
程よい距離感


「お疲れさまでしたー」

「じゃあ、来島さん。少し二人で打ち合わせをしよう」

打ち合わせが終わり、広田さんが遥を誘っている。
その誘いに、遥は事務的に応じていた。
この雰囲気からでは、二人が付き合っているだなんて、疑う事もしないだろう。
さすが遥だ。
二人の光景に羨ましさを感じつつ、瞬爾と一緒に部屋を出たのだった。

「課長、私思い出しましたよ」

廊下を並んで歩く。
それだけの事が、こんなに嬉しかっただろうか。
確かに昔は嬉しかった、そんな気がする。

「思い出したって何をだ?」

一緒に歩きながら、瞬爾が歩調を合わせてくれている事に気付いた。
それは、出会った頃からの変わらない優しさの一つで、あの頃も確かにそれを感じていたのだった。

「課長が意地悪だって事です。思い返してみれば、さっきみたいによく意地悪をされてたなぁって思って」

わざと嫌みぽく言うと、瞬爾は声に出して笑ったのだった。

「そうだっけ?でも、坂下がそれだけモノになる部下だからだよ。いくら俺でも、興味のない部下には意地悪もしないな」

「私の事は、興味あるんですか?」

と、返事に困る質問をしたつもりだった。
もちろん、からかう意味で。
だけど、瞬爾は困るどころか、当たり前の様に答えたのだった。

「もちろん、興味あるよ。昔も今も」

穏やかに向けられる笑みに、私の方が困ってしまった。
どう返していいのかが分からない。
ただ分かることは、胸がときめいたという事実。

本当に私たちは別れたのか?
そう思うくらい、今の私は恋愛モードが高まっている。
まるで、瞬爾に一方的な想いを寄せていた頃の様だ。

一つ一つのやり取りが、かつての恋心を呼び覚ましていたのだった。
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