わたしから、プロポーズ


「どうだった?打ち合わせは」

デスクへ戻ると、寿史さんが声をかけてきた。

「とても、やりがいがあります。私、この仕事に懸ける事にしたので」

「懸ける?」

寿史さんが首をかしげた時、外線電話が鳴った。
それと同時に寿史さんも自席に戻る。

「もしもし、坂下です」

ここへかけてくる社外の人は、取引先の担当者くらいだ。
当たり前の様に電話に出ると、そこから聞こえてきた声は、間違いなく美咲さんだった。

「こんにちは。内田です」

「あ、こんにちは•••」

どうしてここに美咲さんが電話をしてくるの?
思わず瞬爾に視線を移したけれど、そんな事に気付くはずもなく、真剣な眼差しでパソコンとにらめっこしている。

「今回、担当者の一人があなただって聞いたから、ご挨拶に。よろしくね」

「はい。よろしくお願いします」

まさか、本当に挨拶の為だけに電話してきたわけはないだろうに。
すると案の定、美咲さんが言ったのだった。

「私ね、坂下さんに頼みたい仕事があるの。だから、今日こちらに来れるかしら?」

「えっ!?それは•••。私の裁量では決められません。伊藤課長に相談してからでないと」

やっぱり、こういう事が目的か。
だいたい、私に頼みたい仕事とは何か。
はっきり言って、F企画については素人同然だ。
普通に考えたら、私に頼もうとなんて思わないはずなのに。

「そう。じゃあ、瞬爾に回してもらえる?直接交渉するわ」

「分かりました」

そこまでして、私にさせたい仕事とは何か。
腑に落ちないながらも、内線で瞬爾を呼び出す。

「はい、伊藤です」

「坂下です。F企画の内田さんからお電話です」

「内田?あ、ああ。ありがとう、回して」

瞬爾も驚いていていた。
やっぱり、美咲さんの単独嫌がらせに違いない。
苛立ちを少し覚えながらも、受話器を静かに置く。
とはいえ、瞬爾の声を聞くと少しは怒りも収まったのだった。

美咲さんの嫌がらせだろうと、逃げずに受けなければいけない。
全ては、瞬爾へ想いを伝える為だ。
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