わたしから、プロポーズ


「坂下、あのさ•••」

電話を終えた瞬爾が、気まずそうにデスクへやって来た。
だいぶ時間がかかったところを見ると、交渉は難航したらしい。

「どうしたんですか?」

美咲さんから頼まれた仕事というのは、そんなにキツイものなのか。
言いにくそうな顔で、瞬爾が口を開いたのだった。

「内田からの希望でさ、坂下にやってもらいたい仕事があるんだ。ショーのバックグラウンドになる部分があるんだけど、その担当をお願いしたいらしくて•••」

「バックグラウンド?」

それは何の仕事だろう。
内容を聞こうとした時、瞬爾は「やっぱり•••」と小さく呟いた。

「断ってくる」

一人で考え、答えを出したらしい。
身を翻した瞬爾の腕を、思わず掴んでいたのだった。

「待ってください課長。私、まだ仕事内容すら聞いてないんですけど」

私では難しい仕事なのだろうか。
そう思うとますます、どんな内容なのかが気になってしまう。

「それが•••、つまり音響の担当をお願いする事になるんだけど、少し厄介なんだよ」

「厄介って?複雑なやり方なんですか?」

問い詰めると、瞬爾は渋々説明してくれたのだった。
どうやら話す事すら、ためらうらしい。

「やり方ではなく、人だよ。音響に関しては外部委託をしていて、そこの担当者がかなり曲者なんだ」

「外部委託?じゃあ、その担当者はF企画の方ではないって事なんですね?」

瞬爾は頷いて説明を続けてくれた。

「同年代くらいの男性なんだけど、相手を見て難癖をつけては担当者外しをする事で有名でさ。坂下の様に、ほとんど初めての担当者に対しては、嫌がらせの様に担当降ろしをするはずだ。だから、断ってくる」

世の中には、何て最低な奴がいるのだろう。
そして、そんな人間相手に仕事をさせようとする美咲さんにも、底意地の悪さを感じる。
だけど、瞬爾とやり直す為には必要な試練なのかもしれない。
そう思うと、自然と口を突いて出ていたのだった。

「私、やります」と•••。
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