わたしから、プロポーズ


「ったく、帰るなら帰るって、先に言ってよね」

牛島さんとの打ち合わせを終えて最初の会議室へ戻ると、すっかり瞬爾たちの姿は無くなっていた。
代わりに、受付の女性から皆が先に戻るという伝言を貰ったのだった。

「寂しいじゃん•••」

独り言をそう呟いてエレベーターホールへ着くと、

「そんなに寂しい?」
と、瞬爾の声がしたのだった。

「課長!?帰ったんじゃなかったんですか?」

一体どこから現れたのか、笑顔の瞬爾がそこにいた。

「待ってたんだよ。坂下が気になって」

「そう•••ですか」

どこまでを本気にしていいのか。
ときめく胸を抑えて、エレベーターに乗り込む。
すると、瞬爾も素早く乗り込み、階ボタンを押したのだった。

「どんな打ち合わせだったんだ?


さっそくそれを聞かれて、瞬爾が心配してくれているのが分かった。
その優しさに、素直に甘えられたらいいのに。
もどかしさを隠しつつ、牛島さんとの打ち合わせの内容を話したのだった。

「なるほどな。それは大変じゃないか。日中は他の仕事があるわけだし、家に帰ってからになるな」

「家?」

そうか。
会社で店を調べられるほど、時間に余裕がない。
だけど、実家にはパソコンがないのだ。
アナログな両親は、未だにパソコンを設置していない。

「パソコンが無いんだった」

「え?」

さすがに、瞬爾も目を丸くしている。

「実家にパソコン無いのか?」

「うん。お父さんたちアナログだから」

これは困った。
仕方がないから、携帯から探すか。
だけど、プリントアウトがしたかったな。
何か代わりの方法を探して考えていると、瞬爾がおずおずと言ったのだった。

「俺の家でするか?」

「えっ!?瞬爾の家で?」

思わぬ提案に、一瞬固まる。

「元々は、莉緒も使ってたわけだし•••」

瞬爾は、どこか恥ずかしそうにそう言った。
瞬爾の家に行くという事は、二人きりというわけで•••。
それは、つい最近まで当たり前の事だったけれど、確実に緊張するものだ。
だけど私は、エレベーターの扉が開くのとほぼ同時に答えていたのだった。

「うん。そうする」
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