わたしから、プロポーズ


さっそくその夜、瞬爾の家へ行く事になり、待ち合わせ場所であるビルの裏へ向かう。
その間、ヒロくんから電話がかかってきていたけれど、それを無視したのだった。
きっと、言い訳と謝罪の電話だろう。
だから、聞きたくない。
謝る様なキスならば、して欲しくなかったからだ。

少しの間待っていると、軽いクラクション音が聞こえてきた。
振り向くと、瞬爾がフロントガラス越しに小さく手を振っている。
それに笑顔で応えると、助手席へ乗り込んだ。

「何だかドキドキするなぁ。今まで、当たり前だったのにね。この車に乗るのも」

気分が高揚する感覚は、まるで瞬爾と出会った頃の様だ。
すると、瞬爾はケラケラと笑ったのだった。

「本当だな。俺もドキドキするよ。忘れていた気持ちを、思い出すみたいだな」

「うん•••」

周りから見れば、笑われるかもしれないけれど、今私たちに必要なのはこの遠回りだ。
距離を置くことで、ようやく気付けた本当の気持ち。
それは、揺るぎない瞬爾への想いだった。
キスが違う。
流れる時間が違う。
それが、ヒロくんで感じた気持ちだ。
瞬爾でなければ駄目だと、やっと気付くことが出来たのだから、この遠回りは必要だったのだと思う。

車窓から流れる夜景が、ロマンチックに見えるのは、隣に瞬爾がいるからだ。
見えなくなっていた景色が見え始めた感覚に包まれながら、気が付けば懐かしいマンションへ着いていたのだった。
< 157 / 203 >

この作品をシェア

pagetop